美容師って、おしゃべりな人が多いイメージがありませんか?
髪を切りながら世間話をしたり、最近の出来事を聞いたり。美容室では、カットやカラーと同じくらい、お客様との会話が日常の一部になっています。
でも、すべてのお客様に同じように話しかけているわけではありません。たくさんお話しする日もあれば、ほとんど会話をしない日もあります。
実は美容師って、会話の内容だけでなく、話すテンポや間合い、お客様との距離感も考えているんです。
こう書くと、ずいぶん気を遣って大変そうに感じるかもしれません。でも、僕にとっては、そんなやり取りも美容師という仕事の楽しさのひとつ。
今回は、普段の接客でどんなことを考えているのか、少しだけお話ししてみようと思います。
ちなみに、美容師がカット前に髪のどこを見て、どんなことを考えているのか。そんな技術面の裏側は、「美容師は髪を見て何を考える?」でも紹介しています。こちらもよかったら読んでみてくださいね。
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お客様によって、話し方も距離感も変わる

初めてご来店されたお客様でも、会話のテンポや雰囲気から、どんな接し方が心地よさそうか、なんとなく伝わってくることがあります。
例えば、せっかちな方。
こういうお客様には、僕もなるべくハキハキと、結論からお伝えするようにしています。
「できます」「できません」「わかりました」
普段の僕は、どちらかというとゆっくり話す方なので、実は少し苦手だったりするんですけどね(笑)。
一方で、美容室そのものに緊張しているように感じるお客様もいらっしゃいます。
「いらっしゃいませ」とお声がけすると、「あっ、えっと……どうも、はい」と、言葉が少し途切れる。鏡越しでもなかなか目が合わなかったり、椅子に浅く腰かけていたり。
もちろん、それだけで緊張していると決めつけることはありませんが、そんなときは無理に会話を広げようとはしません。
代わりに、
「お膝掛け、いります?」
「本を読むなら、お膝にクッションを置くと読みやすいですよ。クッションいります?」
そんな、ちょっとした気遣いの言葉をかけるようにしています。
お客様も「お願いします」「大丈夫です」と気軽に返事ができますし、そこから自然に会話が生まれることもあります。
何度か通っていただいて、少しずつお店に慣れてこられたら、こちらから声をかける機会も増やしていきます。でも、だからといって急にグイグイ話しかけることはしません。
反対に、最初からたくさんお話ししてくださるお客様もいます。
そういう方は、案外、こちらの意見を求めているというより、話を聞いてほしいだけだったりするんですよね。相槌を打ちながら聞いていると、それだけで会話が弾むこともあります。
むしろ、淡々とお話しされる方のほうが、こちらの考えをしっかり求めていることも。
おしゃべりな方、静かな方、せっかちな方。もちろん人それぞれですが、お客様に合わせて言葉の量やテンポを変えるのも、僕にとっては自然な接客のひとつです。
「髪型を変えたい」の裏にある気持ち
お客様との会話で面白いのは、何気ないひと言から、髪型の相談が始まることです。
「実は最近、髪型を悩んでるんですけど……」
「長いのと短いの、どっちがいいと思います?」
こんなふうに聞かれることがあります。
なかなか大きな質問ですよね(笑)。
そんなとき、僕はまず、どうして髪型を変えたいと思ったのかを聞くようにしています。
毎日のお手入れが面倒になってきたのかもしれません。年齢とともに髪質が変わってきたり、ボリュームやシルエットが気になってきたりすることもあります。
でも、理由は髪の悩みばかりではないんです。
職場で髪型を変えた人がいて素敵だったとか、ドラマに出ている女優さんのヘアスタイルが気になったとか。そんなきっかけから「自分もちょっと変えてみようかな」と思うこともあります。
そういう話を聞くと、僕はまず、
「わかりますー。すごく素敵ですよね」
「カラーもいい色ですしね。長さもアレンジしやすそうですよね」
と、お客様が素敵だと感じたところを一緒にお話しします。
最近なら、「レイヤーも流行っていますし、結構オーダーが多いんですよ」という話をすることも。
実は、こういう会話にはちょっとした理由があります。
お客様の中には、素敵だと思っていても、「若い人の髪型だから、私には似合わないかも」「流行に乗るのも少し恥ずかしい」「あれはモデルさんだから素敵なのよね」と、チャレンジする前から遠慮してしまう方もいらっしゃいます。
だから、まずは自然な会話の中で、そんな不安を少し軽くしてあげたいんです。
もちろん、実際にカットやカラーをするとなれば、髪質や普段のお手入れとの相性も考えます。
「とても素敵だと思うんですけど、チャレンジするなら少し気になることがあるんです」
「もしかしたら、ここが大変になるかもしれません。なので、こうすると扱いやすいと思いますよ」
そんなふうに、気になるところと解決策を一緒にお伝えします。
例えば、脱白髪染めのハイライト。
興味を持たれるお客様は多いのですが、明るさや色落ちについてお話しすると、「やっぱり派手になるよね」「色落ちするもんね」と、今回は見送る方もいらっしゃいます。
そんなときも、無理におすすめすることはありません。
「またいつでもチャレンジできますからね。春や夏になったら、季節的にも挑戦しやすいですし、またお声がけしますね」
その日のうちに決めなくても、興味を持った髪型は、また別のタイミングで楽しめます。
お客様が何に惹かれて、何を不安に感じているのか。そんな話を一緒にしながら髪型を考える時間も、僕は結構好きなんです。
美容師のカルテには、髪以外のこともある

美容室のカルテというと、カラーの薬剤やカットの履歴を記録しているイメージがあると思います。
もちろん、そうした施術内容も大切ですが、僕はお客様との会話で気になったことも、同じカルテに書き残しています。
例えば、以前からハイライトに興味があること。今回のヘアスタイルで喜んでもらえたこと。次に提案してみたい髪型や、接客で気をつけておきたいこと。
昔は、そんなメモを色分けしていた時期もありました。
赤色は、気をつけたいことや、お客様が嫌だと感じられたこと。
青色は、喜んでもらえたことや、またチャレンジしてみたいこと。
緑色は、これからの提案や、いつかやってみたいこと。
結構、細かく書いていたんですよ。
最近は色分けよりも、年々カルテの文字が大きくなってきましたけどね(笑)。
接客で気をつけたいことの中には、髪とは直接関係のない話もあります。
長く担当していると、お客様の生活に大きな変化があったり、少し大変な時期を過ごされていたりすることもあります。
そんな話を以前うかがっていたら、次にお会いしたとき、不用意に同じ話題を持ち出さないようにしたい。もちろん、お客様の方からお話ししてくださるなら、そのときは自然に耳を傾けます。
何もかも覚えているつもりでも、毎日たくさんのお客様と接していると、細かなことは忘れてしまうもの。
だからこそ、必要なことは記録しておくようにしています。
「そういえば、前にお話しされていたハイライト、また考えてみます?」
そんなふうに、以前の会話が次の提案につながることもあります。
カルテは、過去に何をしたかを振り返るだけでなく、次にお会いするときのための大切なメモでもあるんです。
長く担当していると、こちらが教わることもある
美容師は、お客様のお話を聞くことが多い仕事です。
でも、長く続けていると、こちらが教えてもらうことも本当にたくさんあります。
特に、自分より少し上の世代のお客様には、僕の方から相談することもあります。
例えば、親の介護について。これから年齢を重ねる中で、どんなことが大変になるのか。厄年のときは、どんなふうに過ごしていたのか。
自分ではまだ経験していないことを、人生の先輩として教えてもらうんです。
こちらから「ちょっと聞いてもいいですか?」と話を振ることもありますし、反対に、お客様から「最近どうですか?」と僕の近況を聞いていただくこともあります。
美容師ばかりが、お客様の話を聞いているわけではないんですよね。
もちろん、すべてのお客様とそこまで親しくお話しするわけではありません。静かに過ごしたい方もいれば、毎回いろんな出来事を話してくださる方もいます。
お客様から少し重たい話をうかがうこともあります。
そんなとき、僕は無理に答えを出そうとはしません。
「少し話してスッキリするなら、全然言ってくださいね」
そんな感じで、なるべく気負わずに聞くようにしています。
本当に長いお付き合いのお客様なら、一緒に悲しんだり、一緒に悩んだりすることもあります。
一方で、何年も担当しているのに、ふとした会話から「この方、案外せっかちだったんだな」と、新しい一面に気づくことだってあります。
長くお付き合いしていても、まだ知らないことがある。
それも、接客の面白さなんだと思います。
美容師という仕事の、もうひとつの楽しさ
美容師の接客というと、会話を盛り上げたり、お客様に気を遣ったりする姿を思い浮かべるかもしれません。
でも、僕自身は、そんなやり取りを負担だと感じることはあまりありません。
おしゃべりが好きな方もいれば、静かに過ごしたい方もいる。こちらの提案を楽しみにしてくださる方もいれば、何気ない会話の中で自分のことを教えてくださる方もいます。
美容師にもいろんなタイプがいます。僕とはまったく違う接客スタイルの美容師を楽しみにしているお客様だっているんです。
だから、接客って面白いんでしょうね。
髪を切ったり、カラーをしたり。もちろん、それが美容師の大切な仕事です。
でも、その時間に交わす何気ない会話や、お客様から教わることも、長く美容師を続けてきた僕にとっては大切なものになっています。
いろんな人と出会って、いろんな話を聞いて、ときには自分の話も聞いてもらう。
そんな時間があるから、僕は今でも美容師という仕事を楽しんでいるんだと思います。
