「美容師さんって、あんまり提案してくれないですよね」
お客様と話していると、ときどきこんな言葉を聞きます。
たしかに美容室へ行くなら、自分では思いつかない髪型やカラーを教えてほしい。
「こんなのも似合いますよ」と、プロの目線から提案してもらいたい。
そう思うのは自然なことだと思います。
そして美容師としても、この言葉を聞くと、
「ああ、最近ちゃんと提案できてなかったかな」
と考えることがあります。
ただ、その一方で、
「いや、この前も提案したんだけどなあ」
と思うこともあります。
どうやら美容師が考えている「提案」と、お客様が感じる「提案」には、少し違いがあるようです。
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美容師は、案外「小さな提案」をしています
たとえば、
「顔まわりに少しレイヤーを入れてみませんか?」
「今回はリタッチではなく、毛先までカラーしましょうか?」
「前髪の厚みを少し変えてみましょうか?」
美容師からすると、これらは全部「提案」です。
大きく長さを変えなくても、分け目を少し変えたり、顔まわりを調整したり。
ヘアカラーでも、いつものブラウンをベースに少しラベンダーを入れたり、ピンク系へ寄せたり。
仕上がったときに、
「今回はここを少し変えたんですよ」
とお伝えすることもあります。
ところが、お客様からすると、
「いつもと同じ髪型」
だったりします。
美容師としては、
「ええ? 前回、顔まわり変えたじゃないですか。カラーも変えたんですよ〜」
と言いたくなることもあります。
おそらくここには、変化の大きさに対する感覚の違いがあります。
美容師は数センチのレイヤーやカラーの微妙な調整も「提案」と考える。
一方、お客様が期待している提案は、
「思い切ってショートにしてみませんか?」
「こんなカラーも似合うと思います」
という、鏡を見て自分でもはっきり分かるくらいの変化なのかもしれません。
どちらが正しいという話ではありません。
同じ「提案」という言葉でも、想像しているものが少し違うのだと思います。
美容師は、いきなり大きな提案をしないこともあります

美容師も、似合うと思ったものを何でもそのまま提案しているわけではありません。
お客様がどのくらい変化を求めているのかを見ながら、少しずつ探っていることがあります。
「レイヤーを少し入れてみます?」
「今日は毛先まで染めてみます?」
そんな小さな提案をして、
「今日はいいかな」
「いつも通りで」
という答えが何度か続けば、
「この方は今のスタイルがお好きなんだな」
と美容師は理解していきます。
それは提案することを諦めたというより、お客様の希望を尊重した結果でもあります。
だから数年後、お客様から、
「最近あんまり提案してくれないですよね」
と言われると、美容師側では、
「えっ、もっと提案してよかったんですか?」
となることもあります。
「昔からショートは似合わない」も、美容師は覚えています
提案しにくくなる言葉もあります。
たとえば、
「昔からショートは似合わないんです」
「いろんな美容師さんにやってもらったけどダメでした」
お客様としては、過去の経験を伝えているだけかもしれません。
でも美容師は、
「ショートは提案しない方がいいんだな」
という情報として受け取ることがあります。
美容師も、お客様が嫌だと言っていることを何度も勧めたいわけではありません。
ところが本当は、
「今まで似合ったことはないけど、似合うショートがあるなら提案してほしい」
だったとしたら。
ここでも、少しすれ違っています。
断られることより「なぜ嫌だったか」が分かる方が大切
提案を断られること自体は、それほど問題ではありません。
むしろ理由が分かれば、次の提案ができます。
「前の髪型、デザインは好きだったけど、自分ではうまくセットできなかった」
なら、
次は雰囲気を残しながら、もっと簡単にセットできるようにしよう。
「耳が見えすぎるのが嫌だった」
なら、
耳まわりは残して、ほかの部分で変化をつけよう。
「トリートメントは良かった。でも毎回するにはちょっと予算が……」
なら、
毎回ではなく、ときどき取り入れる方法を考えられます。
NOが問題なのではなく、何がNOだったのかが分かれば、違う方向から提案できます。
逆に、理由が分からないままNOが続くと、美容師もだんだん安全な提案に寄っていきます。
初めての美容室ほど「おまかせ」が難しいのも同じ理由です
ここまで読むと、
「だったら美容師が最初から、似合う髪型をどんどん提案してくれたらいいのでは?」
と思うかもしれません。
でも実際には、初めて担当するお客様ほど、美容師が持っている情報は少ないものです。
髪質や骨格、現在の髪の状態は見ればある程度分かります。
でも、
- どのくらいの変化まで楽しめるのか
- 朝、どこまでスタイリングできるのか
- 耳を出すのは平気なのか
- 過去に嫌だった髪型はあるのか
- 仕事や生活の中で髪型に制約があるのか
- 「かわいい」と「かっこいい」なら、どちらが好きなのか
こういったことは、髪を見ただけでは分かりません。
だから初めての美容室で、
「私に一番似合う髪型にしてください。全部おまかせします」
と言われると、実はかなり難しい。
美容師の提案は、その人を担当しながら得た情報によって、少しずつ精度が上がっていくものだと僕は思っています。
初めての美容室で「おまかせ」するときに、どんなことを伝えると美容師が提案しやすくなるのかは、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
▶ 初めての美容室で「おまかせ」はNG?美容師が知っておきたい情報と上手な頼み方
そして、その情報は最初のカウンセリングだけで集まるものでもありません。
むしろ美容師にとって、とてもありがたいのが次に来てくれたときの一言です。
「この前の髪、褒められました」は美容師にとって最高の情報

「この前のカラー、すごくみんなに褒められました」
「どこの美容室に行ってるの?って聞かれたんですよ」
美容師としては、やっぱり嬉しいです。
さらに、
「友達も私の髪型が変わるのを楽しみにしてるみたい。また何か変えたいです」
なんて言われたら、かなり腕が鳴ります。
ただ、単純に褒めてもらったから嬉しいだけではありません。
前回の提案が、そのお客様にとって良い方向だったという情報が返ってきたからです。
「このくらいの変化は楽しんでもらえるんだ」
「次はもう少し踏み込んでも大丈夫かもしれない」
美容師はそこから、また次を考えられます。
提案を全部受け入れてくれる人だから、提案したくなるわけではありません。
提案した結果を返してくれる人は、次の提案を考えやすい。
これは長く担当していくうえで、とても大きなことだと思います。
「前回より今回」「今回より次回」と、お客様からもらった情報が少しずつ増えていくことで、美容師もその人への理解を深めていきます。
一方で、毎回違う美容室や美容師を選んでいると、この情報はそのたびにゼロから積み上げることになります。
もちろん、一度行って合わないと感じた美容室へ無理に通う必要はありません。
ただ、「なかなか自分に合う美容師に出会えない」と美容室を変え続けているなら、少し違った見方もできます。
美容室ジプシーになってしまう理由や、美容師との相性についてはこちらの記事で詳しく書いています。
▶ 美容室ジプシー卒業|良い美容師に出会えない人の特徴と「優先順位」の考え方
でも、美容師だって読み違えます
もちろん、ここまでの話は「お客様がちゃんと伝えればいい」ということではありません。
美容師も普通に読み違えます。
以前、「結べないくらい短くしたい」
と言われたことがあります。
僕はそこから、
「もう結ばなくていいんだな」
「なるべく楽な方がいいのかな」
「乾かすだけでまとまる方がよさそう」
と考えて、あまり段を入れず、まとまりやすい方向を提案しました。
でもお客様としては、
「もっと遊んでくれてもよかったのに」
という感覚だった。
考えてみれば、結べない長さでもウルフはできますし、ショートという選択肢もあります。
美容師はちゃんと考えていた。
でも、考えた結果、違うところへ着地した。
「あのときの一言、そういう意味だったのか」
と、あとから気づくこともあります。
美容師だから、お客様の言葉の裏側まですべて分かるわけではありません。
長く担当するほど「分かっているつもり」になることもある
長く担当している美容師には、メリットがあります。
好きな髪型。
嫌いなこと。
普段のスタイリング。
仕事で髪を結ぶのか。
耳を出したくないのか。
そういった情報が少しずつ蓄積されていきます。
毎回ゼロから説明しなくても「分かってくれている」。
これは長く同じ美容師に担当してもらう良さの一つです。
ただ、その情報がずっと最新とは限りません。
実際、10年ほど担当しているお客様で、ずっと「すきバサミを使わない」という方がいました。
担当し始めたころ、「すきバサミは使わないでほしい」
と言われたので、僕はずっと忠実に守っていました。
ところがある日、ふと、
「そういえば、すきバサミって何で嫌いなんでしたっけ?」
と聞いてみたんです。
少し考えたお客様から返ってきたのは、
「えっ? 私、すきバサミ嫌いって言いましたっけ?」
でした。
10年間守ってきたんですけど(笑)。
よく話を聞くと、当時すかれすぎて髪がまとまらなくなった経験があり、
「すきバサミそのものが嫌い」ではなく、「すかれすぎるのが嫌だった」
という話でした。
もっと早く理由を聞いておけばよかったとは思います。
でも、不思議と反省しているわけでもありません。
その10年間もちゃんとスタイルは作れていたし、楽しく担当させてもらっていました。
むしろ、
「10年前に言ったこと、覚えてくれてたんだ」
という話になって、少し関係が深くなった気さえします。
長く担当するって、こういうこともあります。
長く付き合うほど、美容師も聞きにくくなる
これは僕だけかもしれません。
担当して1〜3年くらいなら、
「これ好きでしたっけ?」
「分け目、どちらでしたっけ?」
と比較的聞きやすい。
ところが長く担当していると、少しずつ聞きにくくなります。
お客様にとって、
「自分のことを分かってくれている美容師」
であることが理想なんじゃないかと思ってしまうからです。
お客様も「分かってくれている」と思う。
美容師も「分かっている美容師でいたい」と思う。
その結果、お互いに説明や確認が少なくなる。
信頼関係があるからこその心地よさでもあります。
でも、その間に好みが変わっていることだってあります。
10年前は嫌だったことが、今も嫌とは限りません。
生活も、仕事も、髪質も、トレンドも変わります。
長く担当しているからこそ、ときどきお互いの情報を更新することも必要なのかもしれません。
「美容師さん、もっと提案して」に美容師側からお願いしたいこと
もし最近、
「いつも同じ髪型だな」
「美容師さんから、もう少し提案してほしいな」
と感じているなら、難しいオーダーを考えていく必要はありません。
たとえば、
「基本は今の感じが好きなんだけど、何か変えられるところあります?」
これだけでも十分です。
昔断った髪型があるなら、
「前は嫌だったけど、今なら似合うものがあれば聞いてみたい」
でもいい。
そして美容室へ行ったとき、前回の髪がどうだったかを少しだけ教えてもらえると、美容師はとても助かります。
「褒められた」
「自分ではセットしにくかった」
「デザインは好きだった」
「ここだけは嫌だった」
「良かったけど、毎回するにはちょっと高いかな」
どれも立派な情報です。
美容師側も、ときどき、
「昔これは嫌いって言ってましたけど、今も嫌です?」
と聞き直してみる。
それくらいでいいのだと思います。
提案は、美容師だけで完成させるものではないのかもしれません
美容師が提案する。
お客様が試してみる。
次回来店したときに感想を聞く。
美容師がまた考える。
その繰り返しで、
「この人には、こういう提案が合う」
が少しずつ育っていきます。
初めて担当する美容師より、何年も担当している美容師の方が提案しやすいことがあるのは、その積み重ねがあるからです。
一方で、長く担当しているからこそ、昔の情報に引っ張られることもあります。
「美容師さん、もっと提案してくれたらいいのに」
そう感じたとき。
もしかすると美容師は、何も考えていないのではなく、
あなたが以前話したことを、思っている以上に大事に覚えているのかもしれません。
そして、ときどき読み違えてもいます(笑)。
美容師とお客様。
お互い少しずつ情報を更新しながら、次の髪型を一緒に考えていけたら。
そのくらいの関係が、ちょうどいいのかもしれません。
